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《アンサング・ヒーロー》 平成21年12月1日作成

更新日:2020/05/10

日本経済新聞の2008年11月27日の夕刊に、分子生物学者の福岡伸一さんのコラムの文章がありました。以下に要約して紹介します。
「過去のノーベル賞の業績をつないでいくと、科学の発展の華麗な歴史を語ることができる。しかし、それは遠くから北アルプスを眺めて、あれが奥穂高、あれが北穂高、あれが槍ヶ岳、と稜線をつなぐ行為に似ている。実際には、巨大な山の塊とその裾野がどこまで広がっているのかという実像は、よく見ることができない。
 今から50年程前、二人の若い科学者、ワトソンとクリックは、DNAの構造が二重螺旋構造をとっていることを明らかにした。そして分子生物学の幕が切って落とされた。ワトソンとクリックの発見は、20世紀最大のエポックとして歴代のノーベル賞の中でもひときわ輝いている。
 しかし、DNAの構造を明らかにすればそこに素晴らしい褒章が待っていると彼らが考えたのは、DNAこそが遺伝物質の本体であることが、既に先人によって分かっていたからである。また、DNAが対構造をとっているというアイディアに彼らが到達できたのは、DNAの組成を詳細に調べていた先人がいたからである。またそれが螺旋状にからまっていることに気づいたのも、他の研究者が出した結晶構造のデータを知るチャンスがあったからである。つまり、頂上に達した一握りのノーベル賞受賞者への道筋は、すでにたくさんの人々によって拓かれていたのである。それらの人々はノーベル賞受賞者と同じか、あるいはそれ以上の切実さを以て、自然の謎を知りたいと願ったのである。謳われることがなかった英雄たち、アンサング・ヒーロー。私は、彼ら彼女らに限りない親しみを感じる。」
というものです。
 私たちは、自分が得たものや栄誉を全て自身の努力の成果だと考えます。しかし実際には、このコラムのように多くの先人があって今の私たちがあるのだと思います。浄土真宗では、葬儀や法事は報恩感謝のために勤めると考えます。それは、先人の業績を含め、多くの恩恵のお蔭をもって今の私たちがある、という考えに基づいているのです。

*私は見たことはないのですが、「アンサングシンデレラ」という病院薬剤師さんの活躍を描いたテレビドラマ(中身を見てないので本当のところは分かりません)の宣伝を見て、過去に書いた自分の文章を思い出して、今回ファイルから見つけ出しました。新型コロナウイルスの感染拡大の中で、多くの医療関係者の方々が奮闘していることは間違いありません。しかし、私たちはその姿を見ることはありません。なぜなら、私たちがテレビを通して見ることができるのは、危険なウイルスとの戦いの最前線でもないですし、最前線で戦う医療関係者の方々の姿でもないでしょう。でも確かに、謳われない多くのヒーローが、懸命に戦っているはずです。*日付は、文章を作成した日付となっています。*その後の私のコメントが付いているものもあります。



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